| 基本は IBM101 |
| 現在101キーボードと呼ばれているものはIBM 101 Enhanced キーボードが原型である。IBMがPC/ATから採用していた。それ以前のIBM/PCやPC/XTでは89キーのものが採用されており、インターフェース仕様も異なっていた。この101や89といった数字はキーの数を意味している。
日本では「日本語」という特殊性から各種のキーボードが考案されてきたがその原型となったのは、おそらく銀行などで使用されていた端末の「JISキーボード」と呼ばれるものではないかと思われる。しかし、JISキーボードと括って称されるものにも多種あり、レイアウトにかなりの差違があるのでどれが「基本」となるかは曖昧である。
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| 「セレクトリック・タイプライター」の伝統 |
IBMキーボードの歴史を語るうえで忘れてならないのは、同社のタイプライターだ。
IBMといえばコンピュータ会社というのがいまでは当たり前の認識だが、同社の社名はInternational Business
Machinesであり、日本語に訳せば国際事務機器株式会社といったところであろう。事務機器という名が示すとおり、IBMはかつて「セレクトリック・タイプライター」という優秀な製品を製造していた。
これは印字ヘッドにゴルフボール状のもの(セレクトリック・エレメントと呼ばれる)を採用した電動タイプライターだった。このゴルフボール状のエレメントは、のちにプリンタにも採用されたことがある。
初期のIBM PC/ATのキーボードからは、明らかにこのセレクトリック・タイプライターに近い感触を受けたものだ。IBMがこだわったというPC/ATのキーボードの背景には、このセレクトリック・タイプライターがあったのかもしれない。 |
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| 日本語キーボードの変遷 |
PC-9801シリーズのキーボードはIBM 101 キーボードの影響を受けている。
このキーボードに慣れ親しんだユーザーが多いせいか、OADGキーボードに抵抗を示す人も少なくなかった。このため、現在でも「DOS/V機用98配列キーボード」などという製品も市場に流通している。
しかし、PC-98NXの登場によってMicrosoft標準の109キーボードがベースとなるようで、PC-9801配列キーボードはNX用のオプションの位置づけに変わる。
DOS/V登場以前にIBM互換プラットフォームで日本語を実現していた、東芝DynaBookはIBMのレイアウトを原型としているがカナがキートップに刻印されていることと、Ctrlキーの位置がTabキーの下にあることが特徴である。
IBMレイアウトのキーボードではCtrlキーは下(スペースバーの並び)にあるのが標準だが、このDynaBookキーボード(一般的にはJ-3100キーボードと呼ばれる)ではPC-9801シリーズとの親和性を考慮してか、CtrlキーをTabキーの下に配置している。それ以外はIBMレイアウトに近いもので、「*」や「:」「;」の位置もIBMレイアウトと同様だ。
UNIX配列と称されているものに近く、現在の106、109キーボードとは一線を画する製品だが、このレイアウトはいまだに人気が高い。
IBM/PCアーキテクチャーを日本語化する規格でもあったAXのための日本語キーボードもあったが、これもいまでは歴史のひとコマにすぎない。どちらかといえば、これもUNIX配列に類似のもので、そのためUNIX系OSユーザーの間はでは一時期このAXキーボードが流行したこともあった。
DOS/Vの登場により、キーボードがOADGで標準化された。これがいわゆる106キーボードで、数字が示すように、キーの個数は101キーボードよりも5個多い106個である。かな漢字制御のためのキーがふえたわけだ。
しかし、JISキーボードを基本としたため、IBM101キーボードとは大きく異なったレイアウトとなっている。J-3100のレイアウトで言及したような特殊記号「*」「:」「;」の位置が大幅に異なっている。また、Ctrlキーはスペースバーに並ぶかたちとなり、PC9801配列でCtrlキーがあった場所にはCapsLockキーが配置されている。
CapLockキーがこのような「良い位置」にあるのは日本語キーボードではあまり意味がないかに思われようが、実は英語圏で重要な意味を持っている。
日本人が英文字の大文字を入力する際にはシフトキーを押しながらキーを押すことが多いが、英語圏ではシフトキーを使わず、わずかな文字数でもCapLockしてから押す習慣がある。これはおそらくタイプライターの伝統を引き継いだものと思われるが、CapsLockを多用する人にはこの位置は理想的だ。
日本語キーボードではこの位置を変更すればよさそうなもの−−−と誰しもが思うことだが、他のレイアウトはJISキーボードに準拠しながら、なぜかこの点では忠実にIBM101キーの配列を守っている。
実は、DOS/V登場時にはキーボードに混乱も見られた。日本IBMのキーボードを誤解して参照したサードパーティなどがあったためで、一時は右側Altキーのないものが106キーボードとして売られたこともあった。
これは「002型鍵盤」と呼ばれるもので、さすがに昨今では見かけることがなくなってしまったが、以前はショップなどで売られている106キーボードにはこの002型も少なくなかった。これに対して現在の106キーボードは「A101型」と呼ばれている。
この頃までは、キーボードに強い影響力を持っていたのはIBMあるいはOADGといった、どちらかといえばハード寄りの組織だった。しかし、Windows95の登場によって、この傾向に変化が生じた。OSベンダーであるMicrosoftが新たにキーボードを規定することになったのである。これが現在一般化している104キーボード(英語)、109キーボード(日本語)である。原型はそれぞれ101、106キーなのだが、Windows95を制御するためのキーが3個追加されている。キーが追加されただけとはいえ、これは、OSベンダーがキーボードというハードウェアを規定するという前代未聞の出来事だった。
MicrosoftではMS Naturalキーボードという自社製品まで発売したが、その巨大さゆえか、日本ではあまり評判にならなかったようだ。
NECは、その独自規格であるPC-9801シリーズにより独自レイアウトを貫いてきたが、前述の通り、PC-98NXシリーズからはこのMicrosoft標準キーボードに従うことになる。
日本の独自規格の一つとして忘れてはならないのは、富士通の「親指シフト配列」である。現在ではその技術が日本語入力コンソーシアムの「NICOLA配列」に引き継がれて、サードパーティからも親指シフトキーボードが発売されている。高速な日本語入力を目標として考案されこの配列を好むものは、今日でも少なくない。
特徴的なのは2鍵同時打鍵で、スペースバーの位置にある親指キー(左右に2個ある)と他のキーを同時に打鍵して日本語を入力するものだ。1981年に登場した「OASYS100」に始まるOASYSシリーズ以外に、アスキーが開発したASkeyboardや最近のNICOLA配列キーボードであるリュウドのRboardシリーズなどがある。
1週間の訓練で1時間に7000〜8000文字を入力できるようになるほどわかりやすく、かつ高速入力が可能なことが特徴で、PCユーザーやMacユーザーにも愛好者が少なくない。わが国独自のキーボードとしては、他に例を見ないほどのヒット商品ではなかろうか。
また、コロンブスの卵のような発想によって生まれたNECの「M式キーボード」も、わかりやすく、かつ高速な日本語入力を可能とするものだ。1983年に発表された独特な形状の「森田式キーボード」がその原型で、文豪ワープロに採用され、今日の「楽々キーボード」に引き継がれている。
日本語をローマ字で表記した五十音表をご覧になるとおわかりのように、日本語は「AIUEO」の母音と「KSTNHMYRW」という子音の組み合わせで基本的に表現される。このことに注目した森田正典氏が、左側に母音、右側に子音を配置して考案したのがM式キーボードだが、確かにこの方式はわかりやすく、ある程度慣れが必要なOASYSキーボードよりも日本語入力の面では優れているかもしれない。アルファベットの配置がQWERTYと全く異なるため、英語キーボードに慣れた人は逆にとまどうという欠点はあるが、もっと注目されていい方式だと思う。
もうひとつ、日本独自の方式として忘れるわけにはいかないのが、「TRONキーボード」だ。これはTRON協会が規定したもので、入力上の無駄な動きを最小限に押さえるように文字キーとファンクションキーを配列している。また、人間工学的見地から、キーピッチ、キーキャップの形状まで定められている。アルファベットはDVORAK配列を採用している。
実際の製品としては、パーソナルメディアの「TK-1」、オフィスゼロの「Zero-ONE」などが、これまでにリリースされた。
不便きわまりないのがノートPCにおけるキーボードのレイアウトで、各社まちまちである。機動性を要求される仕様に根差す混乱かと思われるが、キーピッチもさまざまな種類が存在する。
いわゆるフルサイズキーボードにおいては、キー間隔は19mm程度が普通である。このサイズでキーをレイアウトするとその横幅は30cm近くになってしまうため、A4サイズのノートPC程度が限界である。このため、サブノートでは14mmか、それ以下のキーピッチを採用しているものが多いようだ。
また、109標準からテンキーを除いたとしても92のキーを配置しなければならないために、いくつかのキーをコンビネーションしてしまう例が少なくない。
たとえばPC98-NXシリーズでは本来別のキーである[Home]と[End]を同じキーに割り当て、[Fn]キーのシフトでこれを切り換えている。このような例は、ノートPCにおいてしばしば見受けられるもので、コンビネーションの仕方も各社まちまちというのが現状だ。
いっそのこと英語101キーボードをベースにしてもらった方がありがたいと思うが、国産ノートPCあるいは日本国内向けに販売される外国製ノートPCのほとんどが日本語キーボードだ。デスクトップPCのように簡単にキーボードを交換するわけにはいかないから、英語キーボード愛好者にとっては痛手である。
最近ようやくオプションとして英語キーボードへの交換をサービスするベンダーを現れたが、これは歓迎すべき傾向だろう。 |
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| (参考)PCWAVE 1998年1月 |
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